弁護士大脇通孝の「知っておきたい最新判例紹介2」

2017.06.05 更新

最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定

預貯金は,相続により当然分割されず,遺産分割の対象となる。

1 最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定は,「共同相続された普通預金債権,通常貯金 債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。と説示し,最高裁平成16年4月20日第3小法廷判決その他上記見解と異なる判例は,いずれも変更すべきであるとしました。

2 変更すべきとされた最高裁平成16年4月20日判決は,「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される」としたものです。
この判決を踏まえ,従来,遺産分割の実務は,預貯金等の可分債権は,相続と同時に法定相続分に応じて当然に分割され,各共同相続人は,分割された債権を債務者に対して単独で行使することが可能であり,一方,各共同相続人に分割された債権は,共同相続人全員の合意がない限り,遺産分割の対象とならないとの考え方で運用されていました(もっとも,定額貯金,株式,投資信託受益権,個人向け国債については,相続開始と同時に当然に分割されるものではないとして,当然分割の原則の例外を認めていました。)。

3   本決定により,預貯金は,相続により当然に分割されることはなく,遺産分割により各相続人の取得の有無,額が決められることになり,今後,金融機関は,遺産分割前に,共同相続人の1人からの自己の法定相続分相当額の預貯金の払戻しには応じないものと思われます。

4  それでは,実際に家庭裁判所の遺産分割はどのように運用されるのでしょうか。ここでは,東京家庭裁判所家事5部の遺産分割事件の運用を紹介します(金融法務事情2065号16頁以下)。
(1) まず,ある財産が遺産分割事件の分割対象となるためには,原則として①被相続人が相続開始時に所有している。②分割時も存在する。③未分割である。④積極財産である。との4要件を満たす必要があります。
(2) ある財産が,遺産分割の対象となるかについての運用は以下のとおりです。                       ア 「調停でも審判でも」当然扱うことができる遺産                              土地・建物,現金,預貯金,借地権,株式,投資信託,国債
イ 全相続人が合意すれば「調停と審判」で扱うことができる遺産
貸金,不当利得・不法行為債権(使途不明金),賃料債権
※合意できないときは民事訴訟等で別途解決
ウ 遺産ではないが,全相続人が合意すれば「調停」で扱うことができる財産(遺産ではない から審判では扱えない。)
相続債務,葬儀費用,遺産管理費用
※合意できないときは民事訴訟等で別途解決
(3) 代償財産(遺産を相続人において協力して売却して得た代金)は,①の要件を欠くため本来遺産分割の対象とはなりませんが(なお,売却処分した遺産は②の要件を欠くため,遺産分割の対象とはならない。),例えば特定の相続人の保管現金として遺産分割の対象とする旨合意することにより,遺産分割手続において取り扱うことができます。
(4) 相続開始後の賃料は,①の要件を欠くが,全相続人の合意により遺産分割手続において取り扱うことができます。
(5) 相続開始後の使途不明金は,②の要件を欠き,遺産分割の対象となりません。この場合,使途不明金相当額(又はその1部)を,ある相続人の保管現金として合意した場合,①の要件を欠くが,遺産分割手続において取り扱うことができます。
(6) 相続債務は,④の要件を欠くが,調停限りで,取り扱うことができます。