「民法改正紹介3」

2017.08.16 更新

時効障害事由

1 現行民法では、時効の進行や完成を妨げる時効障害事由として、「中断」及び「停止」の制度が設けられています。
「中断」の場合には、既に経過している時効期間がリセットされ、その時点から新たに時効期間が進行を始めることとなります。
「中断」の事由としては、「請求」(現行民法147条1号)、「差押え、仮差押え又は仮処分」(同条2号)、「承認」(同条3号)が規定されています。ただし、法的手続に基づかず支払を求めるような「催告」は、6か月以内に、裁判上の請求や調停申立て等をしなければ、時効中断の効力が生じないこととされています(現行民法153条)。
また、「停止」は時効の完成を一定期間延期するものです。
「停止」の事由としては、例を挙げると、時効の期間の満了時に天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は、時効は完成しないこととされていました(現行民法161条)。

2 しかし、現行民法の制度はわかりにくい点があったため、改正民法では、時効障害事由が「更新」(現行民法における「中断と」同様の効果)と「完成猶予」(現行民法の「停止」と同様の効果)に再構成されています。
まず、「完成猶予」の事由として、「裁判上の請求」(改正民法147条1項1号)、「支払督促」同項2号)、即決和解、民事調停、家事調停」同項3号)、破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加」同項4号)、「強制執行」(改正民法148条1項1号)、「担保権の実行」(同項2号)、「担保権の実行としての競売」(同項3号)、「財産開示手続」同項4号)、「仮差押え」改正民法149条1号)、「仮処分」同項2号)、「催告」改正民法150条)、「天災等の場合」改正民法161条)などが挙げられています。

3 そして、上記の時効完成猶予事由のうち、「催告」及び「天災等の場合」以外のものについては、判決等によって権利が確定した場合や、強制執行や競売手続が終了した場合には、「更新」として、時効期間が新たに進行を始めることとなります(改正民法147条2項、148条2項)

4 また、現行民法における時効中断事由の「承認」は、改正民法においても権利の承認時から時効期間が新たに進行を始めるものとして、「更新」の事由に当たるとされています。
  さらに、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は10年となることも現行民法と同様です(改正民法169条)

4 一点だけ、全く新しい制度が導入されています。「協議合意による時効完成猶予」の制度です。
これは、債務者が債務の存在を「承認」するところまではいっていないが、債権者との間で協議が進んでいるというケースでも、時効期間満了間際に時効中断のための法的手続をとらざるを得ないケースがあったことに鑑み、訴訟コスト等の負担軽減の狙いから、設けられたものです。
具体的には、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときには、合意から1年間(より短い協議期間を定めた場合にはその期間)は、時効の完成が猶予されるというものです
ただし、1年の経過あるいは定めた協議期間経過の前でも、当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時には時効が完成してしまいますので、注意が必要です(改正民法151条