「改正相続法紹介」2
2018.12.25 更新
第1 遺産制度に関する見直し
2.遺言執行者の権限の明確化等
(1)遺言執行者の法的地位(効果の帰属)の明確化
改正前民法(民法第1015条)では,「遺言執行者は,相続人の代理人とみなす」として,遺言執行者の相続人代理人説を採用していました。
上記規定は,遺言執行者の行為の法的効果が,相続人に帰属することを示すものと解されますが,遺言執行者は,廃除の遺言を執行するために相続人を相手に廃除の申立をすることもあるし,相続財産を処分する必要があるときは,相続人の遺産処分禁止の仮処分を請求こともあり,また,場合によっては相続人の執行妨害行為を告発することもあり,遺言執行者の行為は,相続人の利益に反する場面が想定されます。
そこで,今回の民法改正では,「遺言者の意思をその死後に実現することを職務(任務)とする遺言執行者の地位に応じた規定にあらためるべきだ(法制審議会民法(相続関係)部会第9回会議(平成28年1月19日開催)増田勝久委員,山田攝子委員及び金澄道子幹事提供資料より)として,民法第1012条第1項に「遺言の内容を実現するため」という文言が追加され,遺言執行者の行為の効果(民法第1015条第1項)について,「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と規定され,遺言執行者の権限がより明確になりました。
(参 考)
遺言執行者の主な職務内容 | |||
① | 就職後遅滞なく,相続人その他の利害関係人に就任の通知をしなければならない。 | 改正前の法律では法律上要求されていなかった。 | 改正後の法律では民法第1007条第2項に明文化された。 |
② | 管理すべき相続財産を調査確保して財産目録を調整し,相続人全員に交付する。 | 民法第1011条第1項 | |
③ | 遺言に子の認知がある場合,就職の日から10日以内に遺言の謄本を添付し,届出をしなければならない。 | 民法第781条第2項・戸籍法64条(同60条・同61条) | |
④ | 遺言書に相続人の廃除や廃除の取消しがある場合は,家庭裁判所に必要な手続をする。 | 民法第892・893・894条 | |
⑤ | 遺言の内容に基づき不動産の名義変更,預貯金の解約・払戻し,その他の財産の名義変更等の手続をする。 | 民法第1012条
民法第644条~647条・650条 |
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⑥ | 全ての手続終了後,各相続人や受遺者全員に,その経過や結果の報告を行う。 | 民法第1012条第2項
民法第645条 |
(2)遺言執行者の特定遺贈又は特定遺財産承継遺言における権限の明確化
【新設条文概要】
① 遺言執行者が指定或いは選任された場合は,遺言執行者のみが遺贈の履行を行うことができます。(民法第1012条第2項)
② 遺言執行者が指定或いは選任された場合は,相続人は,相続財産の処分その他の遺言の執行を妨げるような行為をすることができません。(民法第1013条第1項)
これに違反した行為は,無効になります。ただし,遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を図る観点から,善意の第三者には対抗できません。第三者に遺言内容の調査義務を負わせるのは酷であるので,第三者には無過失までは要求していません。(民法第1013条第2項)
上記の規定は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が,相続財産についてその権利を行使することを妨げるものではありません。(民法第1013条第3項)
(例)相続人Aさんに対し,期限を過ぎた貸付金があるB銀行は,遺言執行者がいるかどうかについて,知っているかどうか(善意悪意)問わず,当該相続財産を差し押さえるための手続をすることができる。
③ 特定財産承継遺言があった場合,法定及び代襲相続分を超える部分について,登記・登録及びその他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない(民法第899条の2第1項)ので,遺言執行者は,そのための必要な行為をすることができます。(民法第1014条第2項)
前記の相続財産が,銀行や郵便局に対する預貯金債権の時は,遺言執行者は,対抗要件を備えるための行為の他,その預貯金の払戻しの請求及びその預貯金にかかる契約の解約の申入れをすることができます。ただし,解約の申入れについては,その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られます。(民法第1014条第3項)
被相続人(亡くなった方)の遺言で,これと別の意思を表示していたときは,それに従うことになります。
(3)遺言執行者の復任権(民法第1016条)
これまで,遺言執行者は,遺言者の信任に基づいて指定されたり,家庭裁判所から選任されたりするものなので,遺言執行者自身の病気等の事情によるなどの「やむを得ない事由」がない限り,基本的に第三者に任務を行わせることはできませんでした。
ところが,人々の財産形成態様の複雑化・多様化が進行している現代においては,インターネットバンキングや仮装通貨など,専門家にゆだねたいと思う場面に多々遭遇するものと思われます。
そこで,今回の民法改正により,遺言執行者は,原則復任できるとの規定に改められることになりました。また,やむを得ない事情により第三者に任務を行わせる場合には,遺言執行者は,相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負うとされています。
(例)遺言執行者が,選任した復代理人が不適任または不誠実であることを知りながら,そのことを相続人らに通知しなかったり,その復代理人の解任を怠ったりしたときなどに,損害賠償責任を問われる。