「民法改正紹介2」
2017.08.02 更新
消滅時効
1 債権は、権利を行使することができる期間の制限が定められています。これが「消滅時効」と呼ばれる制度です。消滅時効制度が設けられている理由は、①本来の権利よりも永続した事実状態を尊重すべきこと、②長い年月を経過すると真実の権利関係の証明が困難になること、③権利の上に眠る者は保護に値しないことなどが挙げられます。
2 現行民法では、消滅時効は、「権利を行使することができる時」から進行し(現行民法166条1項)、債権は10年間行使しないときは消滅すると規定されています(現行民法167条1項)。
一方、医師や薬剤師等の診療・調剤等に関する債権は3年(現行民法170条1号)、工事の設計・施工又は監理を業とする者の工事に関する債権は3年(現行民法170条2号)、商品の売掛金債権等は2年(現行民法173条1号)といったように、別途職業別に短期の消滅時効が規定されていました。
また、商行為によって生じた債権は、5年間行使しないときは時効によって消滅するとされていました(現行商法522条)。
3 これに対し、改正民法では、職業別の短期消滅時効や商法の消滅時効を廃止し、債権の時効期間が統一化されています。
債権は、①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときには時効によって消滅することとなりました(改正民法166条1項)。
客観的起算点から10年で債権は時効消滅するとしている点は、現行民法と同様ですが、現行民法には無かった主観的起算点から5年で債権が時効消滅するとされている点が特徴です。
この点、損害賠償請求権などでは、債権者が損害の発生や加害行為と損害との因果関係を債権の発生時から認識しておらず、客観的起算点と主観的起算点が一致しないこともあり得ますが、契約に基づく債権など客観的起算点と主観的起算点が一致するのが通常である場合には、現行民法の10年よりも短い5年の時効期間の適用を受けることとなるため、注意が必要です。
4 ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、通常の債権の消滅時効期間よりも客観的起算点からの期間を長く設け、①債権者が権利を行使することを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、②権利を行使することができる時から20年間行使しないときには時効によって消滅することになります(改正民法167条)。
5 なお、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権には該当しない不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(たとえば、交通事故における対物損害のみの損害賠償請求権など)は、①被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、②不法行為の時から20年を経過したときには時効によって消滅するとされており(改正民法724条)、通常の債権よりも早く最短で3年で時効にかかる可能性がありますので、この点も注意が必要です。
6 時効期間については、時効の中断(時効期間の仕切り直し)や、時効の停止といった制度が現行民法でも設けられていますが、時効を障害する事由については、改正民法で再構成されています。
次回は、時効障害事由についてご紹介いたします。